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 神様の居ない宇〜第2章・箱庭の宇宙 4話 

 時間は、事件から数日前に遡る。
 アルテナは気づいていなかったが、万里絵瑠がこの世界に来ていた。結城も連れて。
「もぉ〜。ユーキちゃん、その顔やめてよ」
 結城はこの世界に来てから・・・・・・いや、万里絵瑠に連れられて生まれ故郷の世界を出てからだ。
 結城の表情は暗かった。何かを悩んでいるようにも見えた。
 万里絵瑠にはわかっていた。結城がなにを悩んでいるのか。
「大丈夫だって言ったでしょ。・・・確かに女王は帰りたがってる。自分の生まれた世界へ」
「ここは女王の想像から生まれた世界と空間、女王がいなくなればこの世界も消滅する・・・」
 万里絵瑠の言葉を結城が続ける。結城の表情は思いつめた暗い表情のままだ。
 そんな結城に、万里絵瑠はクスクスと笑って見せる。
「だからボクが動いてるんだよ、女王がいなくなってもこの空間が存在できるように♪」
 くるりと、結城の真正面に移動してにっこりと笑う。結城の顔が一瞬赤くなるのがわかった。
「ユーキちゃん・・・協力してくれるよね」
 結城がああいう顔をした時はたいてい何を頼んでも頷いてくれる。万里絵瑠はすでに結城の扱い方を熟知していた。
 そして、万里絵瑠の予想通り。結城は黙ったまま、小さく頷いた。



 二人は連れ立ってアルテナが住んでいる星に降りてきていた。
「何するつもりなんだ?」
 結城には何も説明しないままだ。
 どうせ絵瑠は答えてくれないことをわかっているのだろう、答えを期待していない問いだった。
「ナ・イ・ショ☆」
 ピッと人差し指を立てて結城が予想していただろう答えを返してやる。
 結城は小さく息を吐いて興味無さげに――興味がないように振舞っているのかもしれない――あっそ、と短く相槌を打った。




「それじゃ、また明日ね〜v」
 多きく手を振りながら一人の少女が店から出てきた。
「ユーキちゃんはボクが呼ぶまでここで待ってて」
 可愛い笑顔をつくって言う。そして彼女の方に視線を戻す。直後、万里絵瑠の表情が変わる。
 クス・・・・・・。
 万里絵瑠は口の端を上げて小さく笑った。
「行動開始!」
 万里絵瑠は元気良く宣言すると彼女の後を追った。と、その前に、彼女が出てきた店の方に振り向く。
 立ち止まっていたのは時間にして数秒。絵瑠は彼女を追って店から遠ざかっていった。






「こんにちは、ディアさん」
 ディアは声をかけられて振り向いた。
「アルテナ?」
「はい♪」
 ディアの疑問の声にアルテナは笑顔で答えた。
「さよならを言いに来ましたの」
 アルテナはその笑顔を崩さぬまま、そう言って手に持っていたナイフを見せた。
 ディアの表情に疑問の色が濃くなった。
「さよならってどういうことなの・・・?」
「こういうことですの☆」
 アルテナが駆け寄る、ディアの元へ。手に持った刃をディアの方に向けたまま。
 ディアは避けなかった。・・・・避けられなかったのかもしれない。ディアが倒れる。
「さよなら、ディア」
 倒れたディアを、アルテナは、冷めた瞳で見つめていた。
 そして、笑う。
「クス・・・・」
「ディア!?」
 アルテナの笑みとほぼ同時に、後ろから聞こえてきた声。
 それは予想済みのものだった――そうなるように仕向けていたのだから。
 顔を見せるまでも無く、彼には自分が誰かわかっているだろう。
 アルテナは駆け出した。ディアの倒れた体の横を抜けて、彼から離れる方へと。
 彼は追いかけては来なかった。・・・・・・ディアのほうで手一杯だったんだろう。



 裏通りを歩くアルテナの前に、一人の少年が降りてきた。
 蒼い髪と金の瞳。結城だ。
「待っててって、言わなかったっけ?」
 そういってアルテナはクスリと笑った。その姿が小さく歪み、変化する。
「ま、いいや。こっからはユーキちゃんの仕事だよ♪」
 万里絵瑠はにっこりと笑った。結城の手を引き宇宙(そら)へと戻る。
 もう、ここにいる必要はない。あとの作業は上からでもできるのだ。


 結城の瞳が不安げにこちらを見つめた。
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だってば♪ ・・・それとも、ボクの言葉が信じられない?」
「そっ、そんなことないっ!」
 万里絵瑠を疑ってなんかいないと慌てて首を振る結城を見やって、万里絵瑠は下の方へと視線を移した。
 下ではレオルとか言ったか、彼がアルテナのところに向かっているところだった。
「行くよ、ユーキちゃん」
「OK!」
 色々不安や文句を言っていても、結局結城は万里絵瑠に従う。
 その返事を確認すると万里絵瑠は小さく笑って、下を見る結城の背中に視線を向けた。
 結城の意識がレオルに向く。レオルがアルテナに向かって駆け出したその瞬間、レオルの姿が消失した。
「さすがユーキちゃんっ♪ さーてっ、ここからが勝負だね。ま、絶対失敗しないけど」
 自信満々に宣言した万里絵瑠に結城の疑問の視線が向かう。
 万里絵瑠はにっこり笑って見せた。その笑みが、可愛い笑顔から・・・・・・楽しげでけれどどこか背筋を寒くさせる、そんな笑みへと変化する。
 クスクスと小さな笑い声をあげて、万里絵瑠は前に手を差し出した。
 その手の先に光が集まる。
 光は人の形になり、人型はレオルの姿を写し出した。
 ゆっくりと、彼の瞳が開く。
 彼はきょろきょろと辺りを見まわし、小さく呟いた。
「・・・ここは・・?」
 万里絵瑠は子供っぽい人好きのする笑顔を作ってレオルと視線を合わせた。
「宇宙、だよ☆」
「うちゅう?」
 万里絵瑠は彼の疑問には答えず、自分の言いたいことだけを口にする。
「ねぇ、アルテナが憎いと思わない? もし復讐をしたいなら手を貸してあげるよ」
 レオルの表情が驚きを現したままで固まる。
 長い長い沈黙。レオルは俯いたままだった。けれど万里絵瑠にはわかった。彼の瞳が憎悪に染まっていることに。
「ね♪ アルテナは人間じゃないよ。アルテナを殺すためには特別な力が要る。彼女を殺す法をあげるよ」
 彼は何も言わなかった。
 なにも言わないレオルに対して万里絵瑠のイライラがつのる。
「・・・ったく、あんたって優柔不断だねぇ。もういいよ、ボクが決めてあげる」
 ぱっと、レオルが顔をあげた。
「クス・・・・・・」
 口の端を歪めて万里絵瑠が笑う。
 万里絵瑠の瞳がレオルの瞳を見つめる。
「絵瑠!?」
 後ろから結城の声がかかる。
 万里絵瑠は、顔だけを結城の方に向けた。
「この世には必要悪ってもんがあるんだよ。彼にはこの世界を思いっきり引っ掻き回してもらいたいんだ♪」
 その言葉に不似合いな明るい笑みを浮かべて万里絵瑠は言った。
 万里絵瑠の笑みに闇が現れる。
 その瞳にあの憎悪は映し出されていなかった。けれどそこには、確かに狂気の色が在った。

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