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 神様の居ない宇〜第3章・新たなる魂 最終話 

「で・・・・なにがしたかったわけ?」
 羅魏との話を終え、戻ってきた絵瑠に結城は呆れた様に言う。
 羅魏と話したのは、たんに見つかったちゃったから教えてやろう程度のものだった。必要無ければ記憶を消してしまえば良いし、実際そうした。彼がその記憶を取り戻すのはずっと先のことだ。必要になったらまた記憶を返してやるつもりだった。
 けれど、ラシェルと話した結果は・・・・・。
「んーーー・・・・まぁ、ちょっと失敗しちゃったかも」
 その言葉の内容とは裏腹な、どこか呑気で人事のような口調。
 結城は眉をひそめた。
「そうだよねぇ・・・良く考えればあの子の性格でリディアのこと言ったってそんなに応えるわけないんだよねぇ」
 結城の態度には構わず絵瑠は言葉を続ける。
 そう、ラシェルは正義感が強いタイプでは無い。
 絵瑠は”ラシェルのために”リディアを滅ぼした、とそんな言い方をした。けれど、ラシェルはそのことに対してはあまり反応を見せなかった。
 自分が生きている時代よりもずっと前に過ぎてしまった事柄を今更言っても仕方ないといったところだろうか。
 ラシェルは知り合いは大事にするが、全く知らない人間までも気にかけるようなことはしない。目の前で何かがあれば別として。
 ラシェルが強い反応を返したのはフィズの話をした時だ。彼にとって一番大事な人らしいから当然といえば当然か。
 絵瑠の言動の意味が良くわからないのか結城は再度問い掛けてきた。
「だから、なにがしたかったわけ?」
「自分で殺すのヤだから、誰かに殺してもらうか自分で死んでもらうかしようと思ったんだけど。失敗したかなぁって」
「だったらオレが行こうか?」
 結城の目が楽しそうに輝いていた。
(そういえばユーキちゃんはラシェルちゃんを嫌ってたっけ・・・・・・)
 結城の表情を見て、絵瑠はそんなことを思い出した。
「じゃあ・・・お願いしよっかな☆」
 絵瑠はにこっと可愛い笑顔を見せた。
 それを聞いて、結城はさっとそこから姿を消した。早速出かけてしまったようだ。
 絵瑠は冷めた瞳で結城が消えた先を見つめた。
 わからなかった。
 どうして自分では殺したくないのか。今のままでは絶対に目的の達成は不可能。それも理解しているのに、だ。
「・・・・・・・どうでもいいや」
 自分の手でやろうが人の手で実行してもらおうがどっちでも良い。結果が成功ならばそれでいいのだから・・・・。




 結城は、楽しそうに大地を歩いていた。
 絵瑠に怒られるからあいつには手を出さないようにしていた・・・が、やっぱりどうしても気に入らなくて何度かラシェルを殺しそうとしていた。とは言っても直に手だしするわけにはいかないので、間接的にだが。
 でも今回は絵瑠の許可つき。好きなように出来る。
 そう思うと結城の顔がほころんだ。
「絵瑠に大事にされるのはオレ一人でいいんだ」
 多分絵瑠は、自分のことも利用しているにすぎないだろう。けれど同時に、自分が絵瑠のお気に入りの一つであることも自覚していた。そして、ラシェルも・・・・・・・。


 東大陸の北に小さな村がある。
 そこが、ラシェルの故郷であり現住所でもあった。
 結城がラシェルの家に向かっていた時だ、その人物の存在に気付いたのは。
 アルテナ・・・・・――この箱庭の管理者だ。
「しゃーない。ちょっと待つか」
 まさかアルテナの前に姿を現すわけにもいかず、その場でしばらく待つことにした結城であったが、それは絵瑠の側からすれば幸運な。そして結城の側からすればちょっと不満な結果を引き起こした。
 ラシェルが何を思って何を考えたのかは知らない。が、彼は結局自らの死を選んだのだ。
 せっかく自分の手で気に入らないやつを殺せると思ったのにちょっとばかり期待はずれだった。
 けれど一応絵瑠の思い通りにはなったわけだ。それで良いとも思った。
 もうここにいる意味は無い。とりあえず、絵瑠のところに戻ることにした。




「えーるっ」
 結城の声に、絵瑠はゆっくりと後ろを振り返った。
 どうしてこの人はいつも真後ろから現れるんだろう?
 ちょっと疑問に思ったりもしたが、それは取るに足らないことだ。
「おかえり、結局何もしなかったね。ユーキちゃん☆」
 そう言って笑うと結城はぶすっと拗ねたような表情を見せて反論した。
 絵瑠はそれを聞き流しつつ、意識はまだラシェルのほうに集中していた。正確にはラシェルであった魂に。
 一応手は打っておいたが、そう都合良く思った先に転生してくれるだろうか?
 確認しに行かねばならない。とりあえず、彼が転生した星は、予定通りの場所だ。
 あとは、誰に転生したか。だがそればかりは直接行かなければわからない。
 絵瑠はニッと口の端をあげて笑みを見せた。
「行くよ、ユーキちゃん。次で終らせる♪」
 絵瑠の声に結城が慌てて聞き返す。
「行くってどこに?」
 その問いに、絵瑠はゆっくりと視線を外に向ける。果てなく広がる宇宙空間に。
 ふっと薄く笑って、言う。
「もちろん、ラシェルちゃんのところだよ」
 クスクスクス・・・・。
 絵瑠は楽しげな笑みを見せた。
 そうして、絵瑠は結城の手を引いた。

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