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 神様が滅える日 4話 

 指定された場所は放棄地区―― 一般立ち入り禁止で犯罪者や不良がごろごろしている地区だ――の中。綺羅に言わせるとその中でもさらに人が少ない場所らしい。
 なんでわざわざそんなところを指定してきたのか、絵瑠には理解ができなかった。どうせ全てを滅ぼす気なら周囲の被害を気にする必要などないのに・・・・・・。




「あーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 綺羅は、合流してきた羅魏を見るなり叫んだ。
 羅魏は煩そうに耳を塞いで見せ、不機嫌そうに綺羅に目をやった。
「なんでここにいるんだ・・・・・・?」
「知り合い?」
 綺羅と絵瑠の問いが重なった。
「知り合いに連れてこられた。事故でサリフィスに迷い込んできた」
 羅魏は淡々とした口調で、順番に問いに答える。
「僕からも質問。なんで絵瑠と一緒にいるの?」
「マリエル」
 訂正したが、羅魏はまったく聞いていない。
 羅魏の視線は、綺羅だけに向けられていた。
「加奈絵がどっかの誰かに捕まったって言うからだよ。コイツはなんにも教えてくれないし、なら自分で確かめるしかないだろ」
 思いっきり絵瑠を睨みつけ真剣な表情で言った綺羅に、羅魏は小さな溜息をついた。そしてまっすぐ二人を見つめて言う。
「僕は絶対反対だよ」
 羅魏にしては珍しく、強い口調だ。
 絵瑠としては面倒なやりとりはすっ飛ばしてさっさと”滅びを望む者”のところに行きたい。
 綺羅が来たいと言うなら放っておけば良いのだ。それで死んだってこっちの知った事ではない。
 だが、羅魏は頑なに自分の意見を曲ようとしなかった。
「なんでダメなんだ。二人とも加奈絵のところに行くんだろ?」
 苛ついた調子で言う綺羅に、絵瑠はまるで他人事のような口調で答えた。
「ボクは加奈絵なんてどうでもいいんだけどね。加奈絵を連れ去った奴に用があるだけで」
「なら尚更じゃねぇか!」
 絵瑠が加奈絵を気にしないなら、尚更行かなければならない。そういうことなのだろう。
 それならそれでいいと思う。が、羅魏はそうは考えなかったらしい。
「加奈絵さんのことは僕がなんとかするよ」
 真剣に、誰かを想う瞳――あれは、たった一人だけに・・・・・・羅魏にとって唯一の家族であり、自らの恩人である羅魏の片割れにのみ、向けられていた瞳。
「加奈絵・・・・。それとも、綺羅?」
 唐突に、囁くように紡ぎ出された言葉。二人の視線が絵瑠に向けられる。
 絵瑠は薄い笑みでもって羅魏を見つめ返した。
「どっちが女王なのかな。・・・綺羅を行かせたくないの? それとも・・・自分の手で加奈絵を助けたいのかな?」
 羅魏は冷たい、静かな瞳で”滅びを望む者”が待っているだろう目的地を見つめ、言った。
「女王は加奈絵さんなんでしょ?」
 言いながらも、羅魏は自分の言葉を信じていないように聞こえた。もし本当に女王が捕まっているならば、羅魏はもっと焦ってもいいと思うのだが・・・。
「でも羅魏はユーキちゃんの言葉を信じてない。・・・ボクもだよ。ユーキちゃんなら脅されて言わされたって可能性もあるんだから」
 とても長い時を一緒に過ごしてきた。いまさら結城が向こう側につくとは思えない。が、完全に逆らえるとも思わなかった。
 探るような絵瑠の視線にも、羅魏は眉一つ動かさず静かに口を開いた。
「さあ・・・僕にもわからないよ。わからないから、慎重になるんだ」
「・・・そう」
 羅魏は、多分、嘘をついている。
 本当はもうとっくの昔にラシェルの生まれ変わり――女王の転生者を見つけていたっていいはずだ。だが、羅魏はよほど絵瑠を警戒しているらしい。
 今、平穏に生活しているはずの女王の生活を乱したくないから、絵瑠には絶対言わないんだろう。
「・・・・・・決めた。てめえらが何言おうとオレは勝手についてくからな。決定!」
 会話の展開についていけずに呆然としていた綺羅がとうとうキレた。
 言うが早いかピッと絵瑠を指差し、真剣な表情で言った。
「ウダウダ言ってるヒマがあったらさっさと出発しろ」
 瞬間、絵瑠は勝利を確信し、勝ち誇った笑みを羅魏に向けた。
 羅魏は相変わらずの無表情だったが、その瞳だけは、無表情になりきれていなかった。微妙な焦りが、瞳の奥に浮かんでいた。




 放棄地区の中――ビルに囲まれた小さな広場に、橘加奈絵はぽつんと一人で立っていた。
 気配に気づいたのか、ゆっくりと体ごとこちらに向き直る。
「加奈絵!」
 いち早く飛び出したのは綺羅だった。
 だが加奈絵は、焦る綺羅をあざ笑うかのようにするりと宙に浮かびあがった。穏やかな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと横一線に腕を動かす。
 直後、突風が吹き荒れた。
 綺羅は飛ばされそうになりながらもなんとかその場に持ちこたえている。
 絵瑠、羅魏の二人にはこの程度の攻撃はまったくの無意味だった。
「さて、ここで問題です♪」
 まるでゲームでも楽しんでいるかのような口調。
 加奈絵はにこにこと笑いながら、自分の体の前でピッと人差し指を立てた。
「私は誰でしょう」
「誰って・・・・橘加奈絵だろ!」
 即答。綺羅は見たそのままを答えた。
 絵瑠は彼女のお遊びに付きあってやるつもりだった。もともとこういったゲームめいたやり方は嫌いではない――むしろ好きなほうだった。
 だから、とりあえず彼女が望んでいるだろう事。
 すなわち・・・・・・
「一、女王の転生者を操ってる。二、転生者は別の場所にいてそこにいるキミはただの人形。三、橘加奈絵イコール女王の転生者というのが真っ赤な嘘」
 素直に、現在持っている情報の中で考えられる可能性をあげてみた。
 その答えは予想通りだったのか、加奈絵は楽しそうに笑っていた。
「一応答えは入ってるわね。でも・・・・・・一つに絞らないとまずいんじゃない?」
 言うが早いか加奈絵が猛スピードで絵瑠に向かって突っ込んできた。
 絵瑠は慌てもせずに、目の前に障壁を創り出して――
 パンッ! という風船が弾けたような音。
 絵瑠は感情の消えた瞳で加奈絵を見つめ、自らの腕を変形させた。実際にはそれなりのスピードなのだが、絵瑠が落ちついているためか、端からはどうものんびりしているように見えてしまう。
 絵瑠は、剣と化した腕をもって、向かってきた加奈絵を切りつけた。だが、加奈絵が周囲に纏っていたカマイタチに遮られ、逆に絵瑠の腕のほうが切り落とされてしまう。
「ふーん。・・・・弱くはないんだ」
 絵瑠は平然と呟いた。切られた腕など気にも留めずに、楽しそうに言って不敵な笑みを浮かべる。
 そして加奈絵も・・・・・中空でふわりと止まり、クスリと勝ち誇ったような笑みで絵瑠を見下ろした。

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